Still Life
2020.6.3  古屋

コロナ自粛生活の直前の3月に、あるDVDが発売になりました。

 

ジブリ学術ライブラリーSPECIAL 池澤夏樹映像作品全集 TBS編
「スティル・ライフ 霧子とマリエの犯罪的同棲生活

 

 

 

原作は池澤夏樹氏の2冊目の著作であり、芥川賞受賞作
「スティル・ライフ」(1988)。

 

小説はこんな文から始まります。

 

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 この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
 世界と君は、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
 きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

 

 でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。

 大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。 
 たとえば、星を見るとかして。

 

 二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
 水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
 星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果ががあるだろう。
 星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。

 

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バイト先の染色工場で、「ぼく」は同僚の「佐々井」と知り合い、交流を深めていく。
ある日、佐々井から相談をもちかけられた「ぼく」は、彼の仕事を3ヶ月限定で手伝うことになる…。

 

 

 

 

単行本(上)(斑点はシミで、装丁の処理ではありません..).

文庫本(下)

ともに装丁は戸田ツトム氏

 

淡々進行する物語のなかで交わされる会話や、
思考の叙述が、現実から少し浮遊したような、独特の印象を感じさせます。
気持ちが穏やかに静まる小説…。

 

ドラマは1989年制作。(変なサブタイルついてる…)
映像化にあたり、主人公2人の性別を女性に変更し、
田中裕子と南果穂が配役。
物語の強弱をつけるため、原作にはない設定などが追加されています。
音楽の使い方が印象的だったのですが、
版権の問題で、DVDでは別のものに差し代わっています。
現在の視点でみると、微妙に感じられる点も多い作品ですが、
池澤小説作品の映像化は、この作品のみではないでしょうか。

 

リアルタイムで視聴した後、
再放送などの機会にもめぐり遭わなかったので
30年ぶりに再見できるとは思わず、驚きました…。